なぜ欠陥建築ができるのか?

1.建築業界の重層下請構造

高度成長期以来、国がマイホーム政策を進め住宅金融制度をとった頃から、この国家資金に目を付けた他産業の大資本が、この住宅生産分野に進出してきました。これが現在の大手住宅メーカーです。この住宅メーカーの特徴は、自社では直接施工せずに各地に特約店の一括下請店を置き、更にその一括下請店が二次または三次・四次の下請に実際に施工させるシステムをとっている事です。当然各中間業者は、自社の儲けだけを抜いて、仕事を全て下請に発注します。ひどい場合には、住宅メーカーが請け負った金額の4割程度の場合もあります。末端の下請業者は、最初から赤字金額の仕事だとわかっていても、定期的に入ってくる仕事なので無理をして受注してしまいます。そんな状況で仕事を請けて少しでも採算をあげるためには、内緒で材料を落とすか人件費を削るしかなく、それが欠陥の発生につながってしまいます。しかし、その下請業者だけを責める訳にはいきません。一番悪いのは仕事を丸投げする業者です。仕事の丸投げは、法律では原則として禁止されていています。この重層下請構造を無くさない限り、欠陥の撲滅はできません。

2.職人の質の低下

住宅は、自動車のように工場で大量生産される物ではなく、消費者の希望によってプランや仕様が全て違い、同じ物は二つとありません。いくら部材は工場で作られても、組み立ては現場で職人が行います。そのために、出来栄えは職人の腕や自然状況に大きく左右されてしまいます。
昔は各地域に棟梁と呼ばれる人がいて、住宅の建設は近所に住んでいる顔見知りの大工や棟梁に建ててもらうのが普通で、地域の内部だけで行われていました。信頼関係で結ばれていた地域社会では、手抜き工事などしようものならたちまち村八分になり、手抜きなど出来るはずありませんでした。そして、その大工になるためには親方に弟子入りし、丁稚奉公として親方の身の回りの世話から道具の手入れまでをしながら、長い下積み経験の後一人前の職人になっていきましたが、そういう丁稚奉公はよくないという事で廃止されてしまいました。経験の少ない大工にも世間一般よりも高い賃金が保証されるようになり、それ以降腕のいい親方の下で技術を身に付ける環境が少なくなってしまいました。その結果、学校を卒業すると、技術を持たないまま現場に出る事になってしまいました。以前私の自宅前の現場でこんな事がありました。その日は朝から職人がたくさん入り、建て方を行っていました。ずっと眺めていると、一度はめ込んだ柱と梁をはずし始めました。柱の上下が間違っていたのです。その後何事もなく現場は進められて行きましたが、そんな基本的な事を間違える職人が家を建てているのですから、いい家が建つはずがありません。更に、バブル崩壊以降、賃金が安く日本建築の知識もない外国人労働者が大量に採用され、欠陥の発生に拍車をかけてしまいました。各大手メーカーも危機感を抱き、優秀な大工確保のために大工学校を始めましたが、まだあまり効果は出ていません。

3.法律の不備

 建築基準法では、設計図通りに建物が建つように、現場を設計した建築士が監理する事を定めています。しかし、設計から施工まで一貫して一つの業者が請け負い下請に工事をさせるため、実際には建築確認を出すために名前だけを貸す建築士が多数存在し、監理を一切行っていない場合が多いのが現状です。実際に監理をするのは請負業者が雇っている現場監督ですから、自分や自社に不利な事などするはずがありません。その現場監督も、担当する現場が他に何ヶ所もあり、ひどい場合には1週間に1度しか現場に来ないという場合もあります。
 完成時に地方自治体の建築主事が行う検査も、人手不足から新築住宅の3割程度しか現場に出かけていませんでした。検査の内容も、平面図や立面図通りかをチェックするだけなので、一番手抜きが多い構造や下地部分は、一度もチェックする事なく検査済証が発行されてしまいます。これは、住宅金融公庫融資の建物でも同様です。公庫融資だから安心だという話をよく聞きますが、決してそんな事はないのです。
 1984年以前の建築基準法では、全ての建物に建築確認を義務付けていました。しかし、1984年の改正時に「建築物の確認の特例」と「建築物に関する検査の特例」が追加され、プレハブ住宅の場合は、その会社の建築士が確認すれば、自治体が検査しなくても検査済証が発行されるようになってしまいました。一度も行政のチェックを請ける事なく、家が建ってしまうのです。これでは建築確認の意味がありません。
 2001年4月に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が改正されました。これまでに2年程度が多かった瑕疵担保責任期間を、「構造耐力上主要な部分や雨水の侵入を防止する部分に関して10年の義務化」にすると共に、多種多様な工法の性能を比較できる「住宅性能表示制度」が創設されました。契約時にどのような特約があっても10年という期間を短縮することはできませんが、10年を超える設定については最長20年まで延長する事が認められています。しかし、この改正の目的は行政改革と規制緩和が狙いで、住宅トラブルの削減や国民保護が目的ではありません。検査が民間になったからといって検査が厳しくなるわけではなく、天下り先が増えるだけです。住宅性能表示制度にしても、この制度を利用することにより、もし完成後にトラブルが発生した場合は「指定紛争処理機関」に解決を依頼でき、保険金で補修もできることになっていますが、全てのケースで保険金が下りるわけではなく、登録料や書類作成料が数十万円かかるために未だに普及はしていません。また、いくら登録を受けても、今まで仕様規定を守らなかった業者が性能規定を守る保証はありません。
最近では社内検査を厳しくしている会社も多くなってきていますが、現場監督が検査を行っている場合も多く、その成果には疑問が残ります。もし欠陥が発生しても業者が欠陥を認めなかった場合には、消費者が自費で専門家に調査を依頼して欠陥である事の証明をしなくてはなりません。結局は消費者の自己責任が増し、その自己責任は、欠陥かどうかを証明する費用への支払いという形で負担が増えてしまいました。


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